り元の部下の「火の玉」少尉の部署のことまで気にかかるのであった。
「はい、監視班です」
「ほう、監視班とは、なるほどこれはいいところへ配属されたものだ。『火の玉』少尉の監視|哨《しょう》では勿体ないくらいのものだ」
 田毎大尉は本当のことをいった。
「そんなことはありません」
 と六条は、言下に「火の玉」少尉らしい活溌な口調でうち消して、
「今日ほど、監視哨の仕事が重大であり、そして困難を伴っていたことは、未だかつてなかったのです。ソ連極東軍の重爆隊は、今夜にも翼をはって帝都の空を襲うかもしれない情勢であります。自分は今夜から、任務につく決心であります」
「ふーむ、任務につくといって、どうするのか」
「はい、気球に乗ることになっています」
「なに、気球に乗る。どんな気球に乗って、なにをするのか」
 田毎大尉は、「火の玉」少尉が気球に乗るなどといいだしたので、少々おどろいた。
「はい、帝都は今夜から、繋留《けいりゅう》気球を揚《あ》げることになっています。今夜は一つだけでありますが、明日から若干数が殖えることになっています。自分は、その最初の一つに乗りこみまして、深夜の帝都の上空をば監視
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