のを握っているよりは、下を船が通りやしないかどうかが、生命びろいのためにはその方が肝腎《かんじん》のことだぜ」
「ふん、うかうかそんな手にのるもんかい。飛び道具の方が勝にきまってらあ」
キンチャコフは、本性を露骨《ろこつ》にあらわして、「火の玉」少尉に擬《ぎ》したピストルをひっこめようとはしない。
(うるさい奴だ)
と思ったが、六条は別にピストルがこっちを向いているのを気にするようでもなく、ゴンドラの中から朝霧のかかった海面をじっと見下《みおろ》していた。
キンチャコフの方が、かえってふうっと溜息《ためいき》をついた。
涯《はて》なき漂流
不連続線という悪戯者《いたずらもの》がなかったら、二人のうちのどっちかは、間もなく日本海を航行中の汽船のうえに助けられたかもしれないのだ。そしてその滞空記録も、僅か十何時間で終ったかもしれないのだ。
ところが、どこにひそんでいたのか、不連続線という悪戯者が漂流気球の正面にぶつかったからたまらない。
「おう、気球がまた上りだしたぞ」
「あっ、ちがいない。おお六条。あの黒い雲を見ろ」
「思いきって、ここで瓦斯《ガス》をぬいて海面へ
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