下《お》りようではないか」
「なにを。下りるのはいやだ。わしは泳げないんだからな」
「俺が助けてやろう」
「いやだといったらいやだ。このピストルが眼にはいらないのか」
 キンチャコフはピストルをふりまわした。
「うーぬ、貴様。さっきからピストルをかまえて、それで俺を嚇《おど》かしつけているつもりなのか」
「なにを、来るか日本人。来てみろ、一発のもとに赤い花が胸から咲きでるだろう」
「莫迦野郎《ばかやろう》!」
 といったのと、轟然《ごうぜん》たる銃声が耳許にひびいたのと、ほとんど同時だった。
「うーむ、やったな」
 六条は、突然右|胸部《きょうぶ》に焼火箸《やけひばし》をつきこまれたような疼痛《とうつう》を感じた。胸に手をやってみると、掌《てのひら》にベットリ血だ。とたんに彼ははげしく噎《む》せんだ。がっがっがっと、咽喉《のど》の奥から音をたてて飛びだしたのは、真赤な鮮血だった。
「畜生、やりやがったな」
「火の玉」少尉は重傷に屈せず、奮然《ふんぜん》と立ち上った。そしてキンチャコフがピストルを握り直そうとしたところを、すかさずとびこんで足蹴《あしげ》にした。ピストルが、ぽーんと上に跳
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