うに身体を叩《たた》いていたキンチャコフが、送信器の解体に夢中になっている六条にいった。
「ふん、なんだか動きもしなくなったようではないか」
 六条が相槌《あいづち》をうった。高度計を見ると、実に八千メートルの高空だ。いくら夏でも、これは寒いはずだ。
 気球は、ぴーんと膨《ふく》れきっている。
「これじゃ天井にくっついた風船みたいで、一向面白くない」
 キンチャコフが呑気《のんき》そうな口を叩いた。
「おい、貴様は無電の知識をもっとらんのかね」
 六条がたずねた。
「さあ、さっぱり駄目だねえ」
 と、キンチャコフは気のなさそうな返事をした。キンチャコフの方が、六条よりも死生を超越《ちょうえつ》しているらしく見える点があって、「火の玉」少尉も少々|癪《しゃく》にこたえている。しかし、単にぐうたらに生きるものと、帝国軍人としてその本分に生きるものとは、どうしてもちがうのがあたり前で、六条の方が臆病だというわけではない。
「おおっ、気球が下りだしたぞ。ああ、ありがたい。温くなるだろう。ふん、あの辺の雲の中へとびこむな」
 キンチャコフがはしゃぎだした。
 六条は、とうとう無電器械のことをあき
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