らめてしまった。空中漂流以来、戦友戸川のことを思い出し、こっちもこんどは一つ細心《さいしん》且《かつ》沈着にいこうと努力をつづけてきたわけだが、たかが無電器械一つと思うのが、どうしたってこうしたって、うんともすんとも直りはしないのだ。
(やっぱり、自分の柄《がら》にないことは、駄目なんだ)
彼ははじめて悟りに達したような気がした。と同時に、今までの妙な気鬱《きうつ》が、すうっと散じてしまったようであった。
「ほう、なるほど下るわ下るわ。いよいよ墜落の第一歩か」
「あまり嚇《おどか》すなよ」
と、キンチャコフがいって、
「へんなことをいうと、きっとそのとおりになるという法則がある。ちと慎《つつし》めよ」
「なあに、今のうちにこれでも喰っておけ。そうすれば元気になるだろう」
六条は、携帯口糧《けいたいこうりょう》をゴンドラの戸棚の中からひっぱりだして、キンチャコフにも分けてやった。戸棚の中には熱糧食《ねつりょうしょく》だとか、固形《こけい》ウィスキーなども入っていた。なにしろ予《あらかじ》め六人分の食糧が収《おさ》めてあったので、食糧ばかりは当分困らない。
ただ困ったのが水だ。水は
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