にも信号をさせて、二人のうちのどっちかが偵察機に認められればいいと思ったのである。
 キンチャコフは、あまり気がすすんでいなかったようであるが、それでも協力して懐中電灯を輪のように振った。
「おお、あそこを飛んでいるんだから、もう見えてもよさそうなものだが……」
 と、「火の玉」少尉は、上を指した。黒暗澹《こくあんたん》たる闇をぬって、三つの飛行機|標識灯《ひょうしきとう》がうごいていく。それはだんだんこっちへ近づくように見えた。
「うまいぞ。たしかにこっちへやってくる」
「すこし変だよ。あれじゃ高度が高すぎて、気球の上を通りすぎてしまいそうだ」
 キンチャコフが、なかなか理窟《りくつ》のあることをいった。
「通りすぎられて、たまるものかい。おい、今だ。信号灯をもっと振れ」
 二人は、懸命に懐中電灯をうち振ったつもりであった。
 だが、この飛行機は、ついにキンチャコフのいったとおり気球の上方、約五百メートル近いところを飛び過ぎ、やがてだんだん遠くなってしまった。
「畜生、とうとう行かれてしまった」
「どうも無理だよ。こんな小さな灯《あかり》じゃ仕様がない。そのうえ、千切《ちぎ》ったよう
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