ぇことはない」
 と、キンチャコフが生意気な抗議を試みた。
「そこまで分っていれば、いいではないか。この気球が下におりるまで、貴様一人で風や雨と闘うつもりか、それとも貴様と俺と二人で闘った方がいいと思うか」
「火の玉」少尉は、話をうまいところへ追込《おいこ》んでいった。
「ふん」
「それが分ったら、ピストルなんざポケットへ収《しま》っとくことだ。下手な射撃をして、気球にでも当れば、どういうことになると思うんだ。たちまち気球は火に包まれ、俺たち二人は、火を背負いながら地上に飴《あめ》のように叩きつけられて、この世におさらばを告げることになるだろうよ」
「……」
「おい、お前は思いきりのわるい奴だな、キンチャコフ。そのピストルなんか収《しま》って、これからどうすればわれわれは無事地上に下りられるかを研究して、すぐさま実行にかかるのだ。無駄なことはしないがいい」
 そういわれて、キンチャコフはつい兜《かぶと》を脱《ぬ》いだ。彼は不承不承《ふしょうぶしょう》に、逞しい形のピストルをポケットの中に収いこんだ。そして達磨《だるま》が起きあがるように、身体をごろんと一転させて、「火の玉」少尉と向いあ
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