てているように見えなかったけれど、その心の中には狼狽《ろうばい》の色がなかったとはいえない。なにしろ早いところ地上との無電通信を回復しなければ、一大事が起ると思いこんで、マイクの修理に一生けんめいになりすぎ、怪しいソ連人に注意を向けるのを怠《おこた》ったのだ。
その怪しいソ連人は、依然として身体を逆さにしたまま叩きつけられたようになっていたが、彼の両眼は、うすく開いて、「火の玉」少尉の手許《てもと》をみていた。
そのうちに、怪人の一方の手がそろそろとうごきだして、上衣《うわぎ》のポケットの中をさぐりはじめた。
しずかに、再び彼の手首が現れたときには、逞《たくま》しい形をした一挺《いっちょう》のピストルが握られていた。怪人は、身体を逆さにしたまま、ピストルを持ち直して、「火の玉」少尉に狙いをつけた。
「火の玉」少尉は、そのときやっと気がついた。彼は、なにかゴンドラの中のものが動いたように思って、顔をあげてみると、この戦慄《せんりつ》すべき武器が、こっちを向いていたのである。
「おいキンチャコフ。俺を撃つのはいいが、そんな無理な姿勢じゃ、命中しやしないよ」
「火の玉」少尉が、流暢《り
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