こしも変っていなかった。これがどこへ飛ばされるとも分らない漂流気球の中に、心細くも生き残っている人の声とは、どうしてもうけとれなかった。


   キンチャコフ


 だが、この「火の玉」少尉の電信は、予期した応答が得られなかった。
 変だなと思ってしらべてみると、マイクの紐線《コード》がいつの間にかぷつんと切られているのであった。これでは、地上から応答のないのも無理ではない。紐線は、さっきの格闘のときに切断したものにちがいない。彼は、すぐその修理にとりかかった。早いところ地上との通信連絡を回復しておかないと、気球がどこへ流れていったか、皆目《かいもく》手懸《てがか》りがなくなる虞《おそ》れがあるのである。
 ちらりと地上へ目をやると、××陣地はもうマッチ箱の中に豆電球をつけたように小さくなっていた。高度はすでに三千メートル、方角がはっきりしないが、どうやら北の方へ押し流されている様子だ。
 風はいよいよつよく、ゴンドラがひどく傾いているのが分った。
「火の玉」少尉は、マイクに紐線《コード》をつけなおすことに、つい注意を注《そそ》ぎすぎたようであった。外に現れたその態度は、周章《あわ》
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