た。
このとき「火の玉」少尉がもし手を放したとすると、怪ソ連人の身体は、ゴンドラの縁《ふち》の上をとび越えて、あっという間に、なんの掴《つか》まりどころもない空間に放りだされていたことであろう。少尉はそれを心得ていたと見え、相手の袖を手許へぐっと引張りつけたので、相手はゴンドラの角《かど》で、いやというほど尻の骨をうったまま、身体を逆《さか》さにしてずるずると籠の中にくずれ落ち、そのまま動かなくなった。なにゆえに敵を助けるのか、「火の玉」少尉の心中は測《はか》りかねた。
「どうだ、もう一度来るか」
少尉は、足を伸ばして怪人の頭を蹴とばした。だがかの怪人は、気絶でもしているのかなんの反抗も示さなかった。
その間にと思って、「火の玉」少尉は再びマイクをとりあげ、急ぎの報告を電波に托《たく》すつもりで、
「ハア、こっちは××繋留気球第一号の六条です。電波はつづいて出ているでしょうな。このゴンドラの中に、ソ連人が一名忍びこんでいました。どうやらゴンドラの外からのぼってきたもののようです。今気絶していますが、あとでよく調べあげて、知らせます」
そういう少尉の声は、普段話をしているときとす
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