ま、もうすこしで息が停ろうというのに、横眼をつかって、ゴンドラの中の大切な器械器具の配列位置を頭脳の中につめていた。
「日本人、はやくくたばれ!」
 闖入《ちんにゅう》の怪ソ連人は、さらに六条の頸にまいた腕に力を入れた。
「うーむ」
 と唸《うな》って、「火の玉」少尉の上半身が後にのけぞる。
「日本人、まだ死なぬか!」
「うーむ」
「火の玉」少尉の上半身は、蝦《えび》のようにうしろにのけ反《ぞ》った。彼の背後から組みついている怪ソ連人までが、硬い少尉の頭を胸にうけかねて、ゴンドラの縁《ふち》にひどく押しつけられた。
「こら、そう反《そ》っくりかえるな。始末にわるい奴だ、うん」
 と、怪ソ連人が、六条の身体を前に押しかえしたそのときのことだった。
「えい、やっ!」
 ふりしぼるような叫びごえが、今の今まで死んだようになっていた、「火の玉」少尉の咽喉《のど》の奥からとびだした。と、彼の身体が水の中にもぐるような恰好で、すとんと沈んだ。
「わわっ、――」
 奇妙な悲鳴とともに、少尉の背後に組みついて勝ち誇っていた怪ソ連人の身体が、南京《ナンキン》花火のように一転して、どさりと前方へ飛んでいっ
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