。
「あっ、な、なにをするッ」
といったが、手首は骨まで折れたかと思うようなひどい疼痛《とうつう》で、眼があけていられないくらいだ。でも「火の玉」少尉の眼は、その奇々怪々なる相手の姿をとらえた。
「き、貴様、何者だ!」
怪漢は、白い歯をむきだすと、彼の背後から組みついた。ひどい剛力《ごうりき》だった。
「日本人《ヤポンスキー》、黙れ。生命が惜しければ、反抗するな」
そういう相手の言葉は、ロシア語であった。
(ははあ、ソ連人だな!)
この闖入者《ちんにゅうしゃ》は、さっきもいったとおり、なかなかの剛力だった。そのうえ、「火の玉」少尉は、左手首に不意打をくっていて、いまだにそれが痺《しび》れているのだった。だから力もなんにも入らない。それを承知でか、相手は六条の頸《くび》にまきつけた腕をぐんぐん締めつけてくる。
「うーむ、こいつ……」
「火の玉」少尉にとっては、二重の危難《きなん》であった。いずれも予期しなかった不意打の危難であった。たいていのものなら、もうこの辺で他愛なく気絶をしているところであるが、危難が大きければ大きいほど、強くはねかえすのが「火の玉」少尉の身上だった。彼はい
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