るくついた。真空管はキャビネットの中で光っている。彼は揚《あ》げ蓋《ぶた》をひいて、その中から長い紐線《コード》のついたマイクをとりだし、口のところへ持っていった。
「ハア、こっちは繋留気球第一号です。六条|壮介《そうすけ》が送信をしています。いま気球は、風に流されつつ、ぐんぐん上昇しています。気圧は只今、七百……」
 といって、六条が傍の夜光針《やこうしん》のついた気圧計に眺め入ったとき、突然何者とも知れず、マイクを握った彼の左手をぎゅっと掴《つか》んだ者があった。


   思わざる怪影


「ああっ、――」
 豪胆《ごうたん》をもって鳴る「火の玉」少尉も、全く思いがけないこの不意打には、腹の底から大きな愕《おどろ》きの声をあげた。
 闇夜《あんや》の空を漂流《ひょうりゅう》中のゴンドラの中には、彼ただひとりがいるばかりだと思っていたのに、意外にも意外、突然マイクを持つ手首をぎゅっと掴まれたのだから、この愕きも尤《もっと》もであった。
「だ、誰だ!」
 味方か、敵か?
「火の玉」少尉がうしろへふりむくのと、彼の左手首のうえに、焼きつくような激しい痛味を覚えるのと、それが同時であった
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