呀《あ》っ、あの綱も切れている!」
 彼はゴンドラの縁《ふち》にしがみついたまま、一本の綱から他の綱へと、後を追っていった。その結果、気球を繋留《けいりゅう》していた六本の綱が悉《ことごと》く切断されていることを発見したのである。言葉をかえていえば、もはやこの気球を地上に繋《つな》いでいる一本の綱も無いのであった。ああ繋留索《けいりゅうさく》のない気球は、一体どこへ行くのであろうか。
「うん、こいつは失敗《しま》った!」
「火の玉」少尉の全身を、熱湯《ねっとう》のような血が逆流した。
「失敗った、失敗った、失敗った!」
 彼はゴンドラの縁をつかんで、動物園の猿のようにゆすぶった。時刻がたつに従って、大きくなる災禍《さいか》であった。
 地上では、こんどは照空灯が、十文字にうごいて、「要注意」を知らす。
「要注意」も、今さら遅いという外ない。
 そのとき彼は、ゴンドラの中に、無電器械がありはしないかと気がついたので、腰をかがめて、あたりをふりかえった。
「うむ、あるぞ。あれがそうらしい」
 ゴンドラの中の、微《かす》かな灯火のうちに、無電器械の黒ぬりのパネルが眼についたのだ。彼は飛行将校
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