定の時刻が来たから、早く気球の綱《つな》をとくようにいってくれたまえ」
「へえ、やっぱり六条さんは、一人で上へあがるのですか」
「さっきから幾度もそういっているじゃないか。係員にそういってくれ。ぐずぐずしているようなら勝手にこっちが綱を切ってとびあがるぞと、きびしく一本|突込《つっこ》んでおいてくれ」
「えっ、気球の綱を切る? あなた、いくら冗談でもそんな乱暴なことをいうものじゃありませんよ。気球の綱を切れば、地球の外へ吹き流されてしまうじゃありませんか」
「はっはっはっ。もういいから、早く係員に催促《さいそく》をしてきてくれ」
「へえ、かしこまりました」
 老人が向うへかけだしてゆくと、気球のところには六条壮介ひとりとなってしまった。風は相変らずひゅうひゅうと耳許《みみもと》に唸《うな》って、地上わずかに一メートル上のゴンドラが、がたがた揺れる。闇の空をすかしてみると、気球は天に吠えているように巨躰をぐらぐらゆすぶっていて、気になるほど、綱がぎしぎしいっている。
 六条の待っている係員は、一向姿をあらわさなかった。
「なにをしているんだろう」
 と舌打して、彼は真暗な××陣地一帯をず
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