です。あの設計は丸一年かかりました」
「それで只今のお仕事は」
「今は航空研究所の依頼品を監督して組立中です。何ものであるかは一寸申上げられませんが、航空機であることはたしかです」
私のききたいことは終った。相良は松風号の行方不明に関する切抜記事帳を、参考にまでと言って私に差出したが、私は書棚の奥から、それの三倍もある松風号事件参考簿を見せてそれを断った。相良は一寸いやな顔をした。
「ではいつ御返事願えましょうか」
「明晩《みょうばん》までに」
私は驚く相良を尻目にかけて、きっぱり言った。
「当日お電話しますから、どこへもお出掛けないように」
相良が心配そうな顔をして室を出てゆくと入れちがいに執事の矢口が姿をあらわした。
「根賀地《ねがじ》さんから、お電話です」
私は電話室の中に飛びこんだ。遠視電話のスクリーンには部下の根賀地の待ちくたびれた顔があった。私等は読唇術《どくしんじゅつ》で用談を片付けた。
「馬車を……。矢口」
私はこの古風な乗物に揺《ゆ》られ乍《なが》ら推理をすすめて行くのが好きだった。
「中央天文台へ」
私は上機嫌で命じた。中央天文台までは、ここからたっぷり
前へ
次へ
全32ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング