れないのです。折角《せっかく》判るべき松風号の消息までもが絶えてしまうのは惜しいと思います。今は私共の手で出来るだけの事実を調べた上、松井田の精神状態が恢復《かいふく》してから、先生に真相を発表していただいても遅くはないでしょう」
「ごもっともです。ところで風間さんの遺族は今どうしていられますかね」
 相良十吉はこの間にハッと表情を暗くしたようであった。
「実はそれも一つ困っている点なのです。御承知かも知れませんが、あの事件からずっと風間夫人、すま子と言います、それを私が引きとって世話をしています。只今は戸籍面も私の妻になっていますし、真弓という二十になる娘もあるようなわけです」
「なるほど、風間氏が生きていたら、甚《はなは》だ事面倒になるわけですな」
「そのことについては私はもう決心をしています。だが風間は生きていましょうか。すま子には、まだ何事も話をしていないのです」
「よく調べて見ましょう。――それからもう一つ伺《うかが》いたいのです。あなたは松風号のどの部分を御設計でしたか」
「プロペラです」
 と十吉は、はき出すように答えた。
「プロペラの試験は、一番調子がよいとほめられた位
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