、自分の生命《せいめい》が松井田に脅《おど》されているのを感じないわけには行かなかった。彼の懐《ふところ》にしのばせた短刀には、既に松風号の操縦士、風間真人《かざままなんど》の血潮がしみついているのではなかろうか。
松井田が生きているとすれば、松風号はどうしたろう。風間操縦士は生きているのか? 風間と自分とは殊に深い友人だった。松風号の行方不明になった時も、あの位方々を探し廻ったほどだった。松井田がたとえ気が変になっているとしても、せめては風間真人の消息だけでも何とかして知りたいものである、と相良は述べたてた。
私は訊《き》いてみた。
「じゃ何故、彼の腕をとって、貴方のお家へ連れこまないのですか」
「あいつは馬鹿力を持っています。彼奴《きゃつ》の腕にさわることができても、それこそ工場のベルトに触れでもしたかのようにイヤという程、跳返《はねかえ》されるばかりです」
「官憲の手を借りてはどうです」
「それも考えないじゃありません。が、先生。あの有名な事件の人物が二十年後の今日、発見されたことがわかったが最後、可哀想な松井田は警官と新聞記者とに殺到されて、あの男の頭はどこまで変になるか知
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