せん。しかし風間君がある覚悟を持っていたことは本当です。言わずとしれたことですが、相良氏は風間夫人であるすま子さんに不倫《ふりん》な恋心を持っていたのです。それを風間君は知っていたのです。だが其の頃、真弓さんがお母様の胎内にポッチリ宿っていたことについては風間君は知らなかったのです。先にお渡ししたのは関係者四人の血型検査報告で、事実は明瞭に出ています。
さて、風間氏はこの無着陸飛行を達するには出来るだけ高空にのぼって、飛行機の速力を出すつもりだったのです。そして相良氏のつくった穽《わな》に、うまくかかってしまいました。松風号は風間氏の遺骸《いがい》を載せたまま尚も航空をつづけたのです。其の行方は地球上の何処にも発見せられなかったようでした。松風号はどういうわけだか、地球をはなれて、月の引力圏内にまで入ってゆきました。燃料はもうすっかり無くなっていましたが、あとは月に引かれて、月のまわりを惑星《わくせい》のようにグルグル廻りつづけているのです。私の命令で此の天文台に働いていた根賀地君は到頭、今から一週間前に、それを発見したのです」
私は相良氏に、松風号が空間に夢の如く浮遊《ふゆう》し
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