と鼻とをすすり上げて室外へ飛び出した。
「相良氏は松風号のプロペラ設計に当って恐しい仕掛けをつくったのです。それはこの地上で試験しては何一つ欠点のないプロペラです。しかし一万メートル以上の高空では気圧の低下によって、或る恐しい振動が現われることになっていたのです。其の怪振動は一秒間三十万回の超可聴周波《ちょうかちょうしゅうは》です。耳にもきこえない振動なのです。この怪振動こそは今から二十二三年前に、ジョン・ホプキンス大学のウッド博士が発明した殺人音波の変形応用《へんけいおうよう》なのです。ここに相良氏のプロペラ設計書類があります。ウッド博士の公式が巧《たく》みにつかわれています。これは昨夜、川股さんが私共の事務所にお泊《とま》りのとき、例の金庫から項戴《ちょうだい》したのです。この殺人音波に気がついたのはずっとのちのことですが。最初に疑いを生じたのは、風間さんと私とが、箱根の上を飛ぶとき、五千メートルの高度にのぼったのです。そのとき実にいやな気持におそわれました。もっと高度の高いところで飛ぼうものなら、一たまりもなかったのでしょう。このことは風間君に、はっきり判っていたのかどうか存じま
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