のです。詳しいことは言っていられないが、ここに風間氏の手記があり、これからお家へおかえりになってお母様にお聞きになっても、それにちがいなかったのだと、仰有るでしょう。
 今までお父様だと思っていた相良十吉氏は貴女たちにはよい人でしたが、ある恐しい半面の所有者でした。このことの一部は、川股さんも御存知の筈です。恐しい半面。そうです。貴女のお父様である風間氏は、相良氏に殺されたのです。いや、それは全く本当なのです」
 其時、隣室にガラガラと壁体の崩《くず》れる音がした。若き二人は目を見はって相《あい》抱《いだ》いた。
「どうしたのです、あの物音は?」
 私はもうこれまでだと思った。
「根賀地君。私の命令は守ってくれるのだ。君の顔をかえるために、私はいいものを貸してやるぞ」
 私は自分の白髪頭《しらがあたま》を両手でつかむと、すっぽり帽子のように脱いだ。次に耳の下からつらなる頬髯《ほおひげ》と口髭《くちひげ》とをとった。
「おお、あなたは!」三人の男女は声をふるわせて叫んだ。
「栗戸利休、実は松井田四郎太じゃ。根賀地君。これをつけて直ぐ防禦《ぼうぎょ》に立て。あと三十分だッ!」
 根賀地は眼
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