れ、台員一同はお気の毒ながら、一時地下室に入って貰った。外部から天文台への通信に対しては矢口にうまくごまかすことを命じた。真弓子と川股とは隣室に入って貰う。
「入りました、先生」
 二十分|許《ばか》りして根賀地が叫んだことである。
 私は躍る心を抑えて望遠鏡の対眼レンズに眼を押《お》しつけた。眼前に浮び出づる直径五十センチばかりの白円の中にうつりいだされたるは鳶色《とびいろ》の円筒《えんとう》であった。よくよく見ればそれは後へかすかな瓦斯体《ガスたい》を吹き出している。急速度で進行している証拠は、少しずつピントが外れて来るので判る、おお宇宙艇。
「八千キロメートル」
 根賀地が叫んだ。
 把手《クランプ》をまわして見ると、宇宙艇の尾部《びぶ》に明かにそれと読みとれる日の丸の旗印と、相良の会社の銀色マーク。私は歎息《たんそく》した。
 根賀地と計算をはじめる。相良の乗った宇宙艇の進路は、大体火星に向けられていることが、仰角《ぎょうかく》と方位と速度から判った。だが、それには猶少しの疑問がないでもなかった。相良は、いつ只今の状態を自由に変えるか、こちらの方からは到底《とうてい》知れなかっ
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