ばかりの激情が辛《かろ》うじて堰《せ》きとめられていることが、彼の痙攣《けいれん》する唇から読みとれた。
「昨日も御来訪下すったそうですが、生憎《あいにく》で失礼をいたしました。……では御用件というのを承《うけたまわ》りましょうか」
 私は、頬髭を軽くつまみあげながら、早速《さっそく》、話を切りだしたのであった。
「私は、先生が、御依頼した事件につき、非常に迅速《じんそく》に、しかも結論を簡単|明瞭《めいりょう》に、探しだして下さるという評判を承って、大いに喜んで参ったような次第なのですが……」
「それで――お識《し》りになりたい点というのは」
「ハイ。その、それは、今から二十年前のことになりますが――先生もよっく御記憶かと存じますが――東京を出発して無着陸世界一周飛行の途にのぼったまま行方不明となった松風号《まつかぜごう》の最後を識りたいのです」
「なに、松風号の最後?」と私は相良十吉の前に驚きの眼を瞠《みは》ってみせた。「あれは東京からコースを西にとり、確かインドシナあたりまでは飛んでいるのを見かけた者があるが、それっきり消息を断《た》ってしまった、というのでしたね。各新聞社の蹶起
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