た。この飛行を成功させるという点に於て、又風間の説くところの最大能率発揮のため急角度に高空へ昇るのにも、又、飛行機のバランス復旧《ふっきゅう》をはかる上に於ても、搭乗者が一人減ることが大変好ましいことも肯《うなず》けた。いろいろ前々からの事情もあって、出発のときには松井田の同乗を断れなかった。で、兎《と》も角《かく》もここで下りてほしい。成功した上はあとで君のために説明をつける。失敗しても一定時日のあとで君が釈明《しゃくめい》して呉れればよいではないか。落下傘《らっかさん》は用意してある。急いで下りてくれ、とのことだった。
 松井田にもいろいろと言い分もあり、それでは困る事情もあったが、風間への恩義と友情とそれから真理のため、その請《こい》をきき入れねばならなかった。そこで最後の握手をすると松風号からヒラリと飛び下りた。落下傘はうまくひらいた。一時間あまりかかって下りたところは、島根県のある赤禿げ山の顛《いただ》きだった。彼は少量の携帯食糧に飢《うえ》を凌《しの》いだが、襲い来った山上の寒気に我慢が出来なかった。仕方なく落下傘を少しずつやぶっては燃料にした。
 松井田の姿は軈《やが》て
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