死人《しにん》の胸のようなドームの壁体《へきたい》がユラユラと振動してウワンウワンウワンと奇怪な唸り音がそれに応じたようであった。支《ささ》える遑《いとま》もなく相良十吉は気を失って、うしろにどうと仆れてしまった。
 私は直ぐさま眼をレンズにつけたが、惜しむや数秒のちがいで、かねて計算通りに襲《おそ》い来った密雲で、視野はすっかり閉じられてしまった。
「とうとうあれを見たのですよ」
 根賀地が低くささやいた。
 相良の身体を抱きおこして、ウィスキーを呑ませたり、名をよんでみたりした。五分程して彼は、うっすら眼を開いたが、ひどく元気がなかった。
「松井田!」
 聞きとれ難《にく》いほど低い声で、こう相良は唸った。私はポケットから調書をとり出すと彼の耳のところで、しっかりした言調《ごちょう》を選んでよみ聞かせてやった。
「松井田は世人を欺《あざむ》いていた。たしかに生きている。だがそれには無理ならぬ事情もあるのだ。風間操縦士が一周機の運用能率上、松井田の下機を突如命じた。それは広島近くの出来事だった。月影さえない真暗闇《まっくらやみ》の中だった。
 松井田はしばらく風間と争論《そうろん》し
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