さい。これは一番倍率の低い望遠鏡で見た月の表面です」
 相良十吉は、おそるおそる前へ出て、大望遠鏡の主体についた小さい副望遠鏡をのぞきこむのであった。
「では、こんどはこちらを……。少し倍率が大きくなりました。カルレムエ山脈が、少し大きく見えるでしょう。それは更にこちらの方を御覧になるともっと大きくなります。
 それでは、いよいよメーンの望遠鏡です。カルレムエ山脈第一の高峰ウルムナリ山巓《さんてん》が見えるでしょう。こんなに大きく見える望遠鏡を持っているのはこの中央天文台だけです。有名なウィルスン天文台の一番大きい望遠鏡でもこの千分の一しか出ません」
 相良十吉は望遠鏡に吸いついたようになっていた。月が隠れるまでにもうあと二分|弱《じゃく》。
「こちらに把手《クランプ》があります。これをねじると、ピントが月の表面からだんだんと地球の方へ近よって来ます。隕石《いんせき》が飛んでいるのが見えるでしょう。これで二千キロメートルだけ近くなりました。この調子でかえて行きますよ。見えますか。さて、気をつけていて下さい。左下の部分に現われて来るものに……」
 キャーッと魂切《たまぎ》る悲鳴が起った。
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