四日の明るい月に恵まれる筈だが、それはもうあと五分間のちのこと。そして三十分程ちらりちらりと月の顔を見ることが出来たと思うと、あとは又元のように密雲《みつうん》に蔽われてしまう筈である。月が顔を出している三十分の間に私は仕事をやらねばならない。タキシーの運転手は探偵章を見せられてからは必死にスピードを上げている。
はたして五分後に月が出た。あと十分すると前方にあたって烏山の天文台の丸いドームが月光の下に白く浮かび出でた。天を摩《ま》するような無線装置のポールが四本、くっきりと目の前に聳《そび》え立っているのであった。
「おお、こりゃ天文台だ」
と相良が低く叫んだ。私達は黙っていた。
自動車が庁舎の前のゆるい勾配《こうばい》を一気に駈け上ると、根賀地が第一番に広場の砂利《ざり》の上に降り立った。入口にピタリと身体をつけていたが、やがて大きな鉄扉《てっぴ》が、地鳴りのような怪音と共に、静かに左右へ開いた。私達三人は滑るようにして内へ駈けこんだ。
「天文台のドームの中に入っただけで、気が変になるような気がする」と言った人がある。全くドームの中の鬼気《きき》人に迫る物凄《ものすさま》じさ
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