思いの外、ヒラリと運転台につかまった。根賀地が横手の扉《ドア》をいちはやく開いて身体を車外にのり出すと怪漢《かいかん》は猶《なお》も二三発、撃ち出した。かまわずスピードを出そうとする運転手に、
「ストップだッ」
と命令した。でも車体は尚|半丁《はんちょう》ほど前進した。車外へ出てみると、後方に根賀地と怪漢との乱闘しているらしい姿を認めた。駈けつける途中に、一方が仆《たお》れた。と思う間もなく正面から大きい身体がぶつかって来て私はもうすこしで胸板《むないた》をうちこわされるところであった。敵だ!
不運にも私の背後から駈け出して来た運転手が一撃のもとに仆された。相手は中々|手強《てごわ》い。私の左腕はちぎれるように痛みを増した。急場《きゅうば》だ、ヒラリと二度目に怪漢の腕をさけると、三度目には身を沈め、下から相手の脾腹《ひばら》を突き上げた。ウームと恐ろしい唸声《うなりごえ》がして私の目の前に大きな身体がドサリとぶったおれた。
やっと起き上って来た根賀地と運転手とが半ばきまりわる気に怪漢をグルグル捲《ま》きにしばった。
「先生お怪我は? してこいつは何奴《なにやつ》でしょう」
「わか
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