曹は、マスクの中で、できる限りの声を張りあげたのが、少尉の耳に、やっと入った。
「おう、吉奈軍曹。至急偵察を命ずる。放送局裏に、不可解《ふかかい》の部隊が集結しているぞ。突入《とつにゅう》誰何《すいか》しろ。友軍だったら、短銃《ピストル》を二発射て。怪しい奴だったら、三発うて。避難民だったら、四発だ。時節がら、怪しい奴かも知れぬから、臨機応変、細心に観察して、判ったら直ぐ知らせろッ」
 軍曹は、わかったと見えて、首を上下に振った。
「では、行け」
 軍曹は、右手に、短銃《ピストル》を握ると、放送局舎目懸けて、驀進《ばくしん》した。
 少尉は、直ちに、別の信号をして、兵員の急速集結を命じた。部署に最少限度の兵員を残して、あと二十名ばかりのものが集ってきた。彼等は、取敢えず、三門の機関銃を敷《し》いた。
「少尉殿」耳の側で、伝令兵が叫んだ。
 少尉は首を振って、応答した。
「警備司令部との連絡電話が切断したであります」
「なにッ」少尉は、駭《おどろ》いて、伝令兵の腕を握った。「無線電話はどうかッ」
「無線電話にも、司令部の応答が、無いであります」
「無線も駄目か。はあて――」
 途端に、前
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