に、鼻粘膜《びねんまく》を、擽《くすぐ》った。
(塩化《えんか》ピクリンか!)
東山少尉は、腰をひねると、防毒マスクをとりあげた。
「催涙瓦斯《さいるいガス》だぞオ、催涙瓦斯だぞオ!」
瓦斯|警戒哨《けいかいしょう》が、大声に、呶鳴《どな》っていた。
東山少尉は、そのとき、何を思ったのか、ツと、二足、三足前方にすすんだ。
「どうも、おかしいぞ」
前方の、放送局の松林《まつばやし》あたりに、可也《かなり》夥《おびただ》しい人数が移動している様子だった。演習慣れした少尉の耳には、その雑然たる靴音が、ハッキリと判った。
どこの部隊だろうか?
司令部が寄越した援兵《えんぺい》にしては、無警告だし、地方の師団から救援隊が来るとしても、おかしい。
軍隊ではないのかも知れない。
少尉は、背後に向って、携帯用の懐中電灯を、斜《なな》め十字《じゅうじ》に振った。それは下士官を呼ぶ信号だった。
コトコト[#「 コトコト」は底本では「コトコト」]と足音《あしおと》がして、軍曹の肩章《けんしょう》のある下士官が、少尉の側にピタリと身体を寄せた。
「吉奈軍曹《よしなぐんそう》であります」
軍
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