ぱッ――。くらくらッとする鋭い光に照された。
「ど、ど、ど、ど、どーン」
 ゆらゆらと、愛宕山《あたごやま》が揺《ゆら》いだ。
「少尉殿、少尉どのォ!」
 誰かが、根《こん》を限《かぎ》りに呼んでいる。
「オーイ」社殿《しゃでん》の脇《わき》で、元気な返事があった。
「少尉殿。聴音機第一号と第三号とが破壊されましたッ」
「第四号の修理は出来たかッ」
「まだであります」
「早く修理して、第二号と一緒に働かせい」
「はいッ。第四号の修理を、急ぐであります」
 兵は、バタバタと帰っていった。
(聴音機が、たった一台になっては、この山の任務も、これまでだナ)
 東山少尉は、暗闇の中に、唇を噛んだ。七台の聴音機は、六台まで壊れ、先刻の報告では、高射砲も三門やられ、のこるは二門になっていた。
 兵員は?
 もともと一小隊しか居なかった兵員は、四分の一にも足らぬ人数しか、残っていなかった。
「ピリピリ。ピリピリ」
 振笛《しんてき》が、けたたましく鳴り響いた。毒瓦斯が、また、やってきたらしい。
 何か、喚《わめ》く声がする。胡椒臭《こしょうくさ》い、刺戟性《しげきせい》の瓦斯《ガス》が、微《かす》か
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