には、若い男の、苦悶にみちた死顔があった。
印袢纏は、奪ったマスクに狂喜して、自分の顔に充てたがどうしたものか、その場に昏倒《こんとう》してしまった。髯男は、すぐさま駈けよって、防毒マスクを被せてやった。印袢纏は、その儘《まま》動かず、地上にながながと伸びていた。
髯男は、マスクを外された若い男の傍に近よった。その青年は、もう疾《とっ》くに死んでいた。それは勿論、瓦斯中毒ではないことは一と目で判った。下半身が滅茶滅茶にやられているのだった。次第に燃えさかってくる一帯の火災は、無惨《むざん》にも血と泥とにまみれた青年の腹部を、あかあかと照しだした。
死んだ青年は、背中に大きい包みを背負っていた。髯男《ひげおとこ》は、それが、なんとなく気懸《きがか》りになったので、手早く解いてみた。その中から、ゴロリと転りだしたのは、真黒の、三つの防毒マスクだった。
「ほう、防毒マスク?」
髯男は、不審そうに、あたりを見廻した。
「ヒイヒイ」
そのとき、枯れきったような赤ン坊の泣き声がした。
「おお、このゴミ箱に、人間がいるッ!」
ゴトリゴトリ、大塵箱《おおごみばこ》の内部で、赤ン坊にしては大
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