都の彼方此方《かなたこなた》には、三四ヶ所の火の手が上っていた。
次の爆弾が、空から投げ落とされる度《たび》に、物凄い火柱が立って、それは軈《やが》て、夥《おびただ》しい真白な煙となって、空中に奔騰《ほんとう》している有様が、夜目にもハッキリと見えた。そして、その次に、浮び出す景色は、嘗《かつ》て関東大震災で経験したところの火焔の幕が、見る見るうちに、四方へ拡がってゆくのであった。
弦三は、地響きのために、いまにも振り落されそうになる吾が身を、電柱の上に、しっかり支《ささ》えている裡《うち》に、やっと正気《しょうき》に還ったようであった。
彼は、こわごわ、電柱を下りた。
地上に降り立ってみると、そこには又、先刻《さっき》と違った光景が展開しているのだった。
どこで、やられて来たものか、呻《うめ》き苦しんでいる負傷者が、ガードの下に、十五六人も寝かされていた。
「ヒューッ」どこからともなく、警笛《けいてき》が鳴った。
「毒瓦斯《どくガス》だ、毒瓦斯だッ!」
「瓦斯がきましたよ、逃げて下さい」
「風上《かざかみ》へ逃げてください。皆さん、××町の方を廻って××町へ出て下さい」
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