[#「亙った」は底本では「互った」]。
 光弾は、須田町の、地下鉄ビルの横腹に、真黄色な光線を、べたべたになすりつけた。
 弦三は、商店の軒下《のきした》から飛び出して、万世橋《まんせいばし》ガードの下を目懸けて走っていった。
 ガードの上と思われるあたりで、物凄い音響がした。
「ドッ、ドッ、ドッ、グワーン」それは紛《まぎ》れもなく、高射砲隊の撃ちだした音だった。悠々と天下《あまくだ》りながら、帝都の屋根を照らしていた光弾が、一瞬間にして、粉砕されてしまった。
 帝都の空は、又もや、元の暗黒に還った。
 と、思ったのは、それも一瞬間のことだった。
 サッと、紫電一閃《しでんいっせん》! どこから出したのか、幅の広い照空灯が、ぶっちがいに、大空の真中で、交叉《こうさ》した。
「呀ッ、敵機だッ」
 真白い、蜻蛉《とんぼ》の腹のような機影が、ピカリと光った。
 そこを覘《ねら》って、釣瓶撃《つるべう》ちに、高射砲の砲火が、耳を聾《ろう》するばかりの喚声《かんせい》をあげて、集中された。
 照空灯は、いつの間にか、消えていた。
 その次の瞬間、弦三の眼の前に、瓦斯《ガス》タンクほどもあるような
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