「誰か、表の電灯を消して下さい」
「もう消しましたよオ」真暗な店の方から、返事があった。
「お父さん。ここの電灯も消して、ちょうだい。あたし、怖いわ」長女のみどりが、奥の間へやってきた。
「ここは見えやしないよ」
「だって、戸の隙間《すきま》から、見えちまうじゃないの」
「じゃ、こうしとこうかな。手拭《てぬぐい》を、姐《ねえ》さん被《かむ》りにさせて」
「ああ、それで、いいわ」あとから附いて来た紅子《べにこ》が云った。
「家の中を皆、真暗にしてしまうんですもの。暗くちゃ、怖いわ」
 そこへ、店の方から、ドカドカと上《あが》りこんで来た者があった。
「お父さん」
「おお、弦三か。よく帰って来た」
「この前、お父さんにあげた防毒マスクが、いよいよ役に立ちますよ」
「うん」長造は感慨探《かんがいふか》そうに云った。「あまりいいことじゃない。それにマスクは一つじゃなア」
「お父|様《さん》」弦三は、電灯の下へ、大きな包みをドサリと置いた。
「いよいよ、皆の分を作ってきましたよ。姉さんはいますか、姉さん」
「あい、此処《ここ》よ」後に下っていたみどりが顔を出した。
「ここに、鉛筆で使用法を書
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