ホとアリゾナを亡《な》くし、約六万|噸《トン》を失った上、航空母艦サラトガに多大の損傷を受けたというから、まず帝国海軍の筋書程度までは成功したと云ってよいじゃろう。これで米国聯合艦隊も、相当|胆《きも》を潰《つぶ》したと思う。金剛と妙高とを、南シナ海で喪った帝国海軍も、これで戦前と同率海軍力《どうりつかいぐんりょく》を保てたというわけじゃ」
「伊号一〇一は、爆雷にやられて、海底にもぐりこんだそうですが、特務機関の報告によると、海面に湧出《ゆうしゅつ》した重油の量が、ちと少なすぎるという話ですな」
「ほほう、そうかの」将軍は初耳らしく、その参謀の方に顔を向けた。「だが重油が流れ出すようでは、所詮《しょせん》助かるまい」
「いや、それが鳥渡《ちょっと》面白い解釈もあるんです。というのは……」
 そこへ遽《あわ》ただしく、伝令兵が大股で近よると、司令官の前に挙手《きょしゅ》の礼をした。
「お話中でありますが」と伝令兵は大きな声で怒鳴《どな》った。「唯今第四師団より報告がありました」
 司令官の側に、先刻《さっき》から一言も吐かないで沈黙の行《ぎょう》を続けていた有馬参謀長が佩剣《はいけん》を
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