ガチャリと音させると、「よオし、読みあげい」と命じたのだった。
「はッ」伝令兵は、左手に握っていた白い紙をツと目の前に上げると、声を張りあげて、電文を読んでいった。「昭和十×年五月十五日午後五時三十分。第四師団司令部発第四〇二号。和歌山県|潮岬《しおのみさき》南方百キロの海上に駐在せる防空監視哨《ぼうくうかんししょう》の報告によれば、米軍《べいぐん》に属する重爆飛行艇三台、給油機六台、攻撃機十五台、偵察機十二台、戦闘機十二台合計四十八機よりなる大空軍《だいくうぐん》は、該《がい》監視哨の位置より更に南南西約五キロメートルの空中を、戦闘機は二千五百メートルの高度、他はいずれも二千メートルの高度をとり、各隊毎に雁行形《がんこうけい》の編隊を以て、東北東に向け飛行中なり。終り」
「うむ、御苦労」参謀長は、伝令の手から、電文を受取って、云った。
伝令兵は、再び挙手の礼をすると、同じ室《しつ》の、一方の壁に並んだ、夥《おびただ》しい通信パネルの傍へ帰っていった。そのパネルの前には、通信兵員が七八名も並び、戴頭受話機《たいとうじゅわき》をかけて、赤いパイロット・ランプの点《つ》くジャックを覘《ね
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