が、その東へ通ずる坑道は何故《なにゆえ》か、厳然《げんぜん》と閉鎖されたまま、その扉に近づくことは、司令部付のものと雖《いえど》も禁ぜられていた。それは一つの大きい謎であった。司令部内で知っていたのは、司令官の別府《べっぷ》大将と、その信頼すべき副官の湯河原《ゆがわら》中佐とだけであった。
この物々しい地下街の中心である警備司令室では、真中に青い羅紗《らしゃ》のかかった大きい卓子《テーブル》が置かれ、広げられた亜細亜《アジア》大地図を囲んで、司令官を始め幕僚《ばくりょう》の、緊張しきった顔が集っていた。
「すると、第一回の比律賓《フィリッピン》攻略は、結果失敗に終ったということになりますな」参謀肩章《さんぼうけんしょう》の金モール美しい将校が、声を呑んで唸った。
「うん、そうじゃ」司令官の別府大将は、頤髯《あごひげ》をキュッと扱《しご》いて、目を閉じた。「第一師団は、マニラの北方二百キロのリンガイエン湾に敵前上陸し、三日目にはマニラを去る六十キロのバコロ附近まで進出したのじゃったが、そこで勝手の悪い雨中戦《うちゅうせん》をやり、おまけに山一つ向うのオロンガボオ軍港からの四十|糎《セン
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