地下街の空気は、絶えず送風機で清浄《せいじょう》に保たれ、地上が毒瓦斯で包まれたときには、数層の消毒扉《しょうどくひ》が自動的に閉って、地下街の人命を保護するようになっていた。
さらに驚くべきは、この地下街にいながらにして、東京附近の重要なる三十ヶ所に於ける展望が出来、その附近の音響を聞き分ける仕掛けがあった。例えば、芝浦《しばうら》の埋立地《うめたてち》に、鉄筋コンクリートで出来た背の高い煙突《えんとつ》があったが、そこからは、一度も煙が出たことがないのを、附近の人は知っていた。その煙突こそは、東京警備司令部の眼であり、耳であったのだった。すなわち、その煙突の頂上には、鉄筋コンクリートの中に隠れて、仙台放送局の円本《まるもと》博士が発明したM式マイクロフォンが麒麟《きりん》のような聴覚をもち、逓信省《ていしんしょう》の青年技師|利根川保《とねがわたもつ》君が設計したテレヴィジョン回転鏡が閻魔大王《えんまだいおう》のような視力を持っていたのだった。
この地下街には、別に、東と西とへ続く、やや狭い坑道《こうどう》があったが、その西へ続くものは、重々しい鉄扉《てっぴ》がときどき開かれた
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