民の一人を、そこに連れこんだとしても、決して言いあてることは出来ないであろうと思われた。――この地下街こそは、東京警備司令部が、日米開戦と共に、引移った本拠だった。
この地下街については、詳しく述べることを憚《はばか》るが、大体のことを云うと、丸の内に近い某区域にあって、地下百メートルの探さにあった。この地下街に入るには、東京市内で六ヶ所の坑道入口《こうどういりぐち》が設けられてあった。いずれも、偽装《ぎそう》をこらした秘密入口であるために、入口附近に居住している連中にも、それと判らなかった。唯一つ、日本橋の某百貨店のエレベーター坑道の底部《ていぶ》に開いているものは、エレベーター故障事件に発して、炯眼《けいがん》なる私立探偵|帆村荘六《ほむらそうろく》に感付かれたが、軍部は逸早《いちはや》くそれを識《し》ると、数十万円を投じたその地下道を惜気《おしげ》もなく取壊《とりこわ》し、改めて某区の出版会社の倉庫の中に、新道を造ったほど、喧《やかま》しいものだった。
この地下室の中には、地上と連絡する電話も完成していた。食糧も弾薬も豊富だった。大きくないが精巧な機械工場も設けられてあった。
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