隊司令長官
[#ここで字下げ終わり]
[#地付き]海軍大将男爵 大鳴門正彦
(とうとう、清二は殺《や》られたか!)
「旦那」郵吉が、おずおずと声を出した。「もしや、悪い報《しら》せでも……」
郵吉は、陸海軍から出した戦死通知を、何十通となく、区内に配達してあるいた経験から、充分それと承知をしているのだったが……。
「なァに――」
長造は、何も知らぬお妻が、奥から印鑑《いんかん》をもって来るのを見ると、グッと唇を噛んで堪《こら》えた。
「大したことじゃないよ。郵どん」
「……」郵どんは、長造の胸の中を察しやって、無言で頭を下げた。そして配達証に判を貰うと逃げるように、店先を出ていった。
「あなた――」その場の様子に、早くも気付いたお内儀《かみ》は、恐ろしそうに、やっと夫の名を呼んだだけだった。
「おお、お妻、一緒に、奥へ来な」
長造は、スタスタ奥の間へ入っていった。
店の前の、警戒管制で暗くなった路面を、一隊の青年団員が、喇叭を吹き吹き、通りすぎた。
空襲警報《くうしゅうけいほう》!
時刻は、時計の外に、一向判らぬ地下室のことであった。それは相当に規模の大きい地
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