は、何処《どこ》の子だい」長造が訊いた。
「あれは、ほら」お妻は首をふって思い出そうと努力した。「亀さんちの、区役所の用務員さんで、そうそう、浅川亀之助《あさかわかめのすけ》という名前だった、あの亀さんの末《すえ》ッ子ですよ」
「おォ、おォ、亀之助ンとこの子供かい。どうりで見覚《みおぼ》えがあると思った。暫く見ないうちに大きくなったもんだネ」
「あの惣領息子《そうりょうむすこ》が、岸一《きしいち》さんといって、社会局の事務員をしていたのが、いまの話では、立川飛行聯隊へ召集されたんですって」
「ふン、ふン、岸ちゃんてのは知っているよ。よく妹なんか連れて、うちの清二のところへ遊びに来たっけが、もうそうなるかなア」
そこへまた、ノコノコと入って来た人影があった。それは、古くから浅草郵便局の集配人をやっている川瀬郵吉《かわせゆうきち》だった。
「下田さん、書留ですよ」
「おう、郵どん、御苦労だな」長造が、古い馴染《なじみ》の集配人を労《ねぎら》った。「判子《はんこ》を、ちょいと、出しとくれ」
「あい」お妻は、奥へ認印《みとめいん》をとりに行った。
「旦那」郵吉は、大きい鞄の中から、出しにくそ
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