も、出征なすったんだってネ」
「兄さんは立川の飛行聯隊へ召集《しょうしゅう》されて行ったんだけれど、どうしているのかなア、その後なんとも云って来ないんです」
「心配しないで、観音《かんのん》さまへ、お願い申しときなさい。きっと守って下さるから……」
 お妻も、同じような思いだった。二男の清二が潜水艦に乗組んで演習に出たきり、消息の知れないこと、もう四十日に近い。彼女は、母の慈愛《じあい》をもって、幼時から信仰を捧げている浅草の観世音《かんぜおん》の前に、毎朝毎夕ひそかに額《ぬかず》き、おのれの寿命を縮めても、愛児の武運を守らせ給えと、念じているのだった。
「誰の家も、同じようなことがあるんだネ」波二少年は暗い顔を、強《し》いてふり払うように云った。「ンじゃ、僕もしっかり働きます、さようなら、おばさん」
「ああ、いってらっしゃい。波二さんも、気をつけてネ……」
 少年は、高いところに点《つ》いている電灯の電球《たま》を、ねじって消すために、長い竿竹《さおだけ》の尖端《せんたん》を、五つほどに割って、繃帯《ほうたい》で止めてある長道具《ながどうぐ》を担ぐと、急いで駈け出していった。
「あれ
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