命が、丁《ちょう》か半《はん》かの賽《さい》ころの目に懸けられているのだ!
 警戒管制が敷かれると、訓練された在郷軍人会《ざいごうぐんじんかい》、青年団、ボーイ・スカウトは、直《ただ》ちに出動した。
 一番目覚ましい飛躍《ひやく》を伝えられたのは、矢張《やは》り、光の世界と称《よ》ばれている東京は下町の、浅草《あさくさ》区だったという。
「おい素六《そろく》、どこへ行く?」
 店の前まで来たときに、花川戸《はなかわど》の鼻緒問屋《はなおどんや》の主人|下田長造《しもだちょうぞう》は遽《あわ》てて駈けだす三男の素六を認めたので、イキナリ声をかけたのだった。
「あ、お父さん」ボーイ・スカウトの服装に身を固めた素六は、緊張の面《おもて》を輝《かがや》かせて、立止《たちどま》った。「いよいよ警戒管制が出ましたから、僕働いてきます!」
「なに、警戒管制!」長造は目をパチクリとした。「警戒管制てなんだい」
「いやだなア、お父さんは」少年は体をくの字に曲げて慨歎《がいたん》したのだった。「警戒管制てのは、敵の飛行機が東京の上空にやって来て、街の明るい電灯を見ると、ははァ此の下が東京市だなと知るでしょ
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