機三十台、戦闘機三十台及び空中給油機六台より編成せられ、根拠地|西湖《せいこ》と大阪との距離は千五百キロ、東京との距離は二千キロである。終り」
 参謀が発表した驚くべき空中襲撃の警報は、帝都全市民にとって、僧侶《そうりょ》がわたす引導《いんどう》にひとしかった。高声器の前に鼻を並べた誰も彼もは、お互に顔を見合わせ、同じように大きな溜息《ためいき》をついたのだった。
 ああ、敵機の空中襲撃!
 いよいよ帝都の上空に、米国空軍の姿が現れるのだ。
 あの碧《あお》い眼玉をした赤鬼たちが、吾等の愛すべき家族を覘《ねら》って爆弾を投じ、焼夷弾《しょういだん》で灼きひろげ、毒瓦斯《どくガス》で呼吸《いき》の根を停めようとするのだ。
「いよいよ来るねッ」丸の内の会社から退けて、郊外中野へ帰ってゆく若い勤人《つとめにん》が、一緒に高声器の前に駆けこんだ僚友《りょうゆう》に呼びかけた。
「うん」その友人は、鼻の頭に、膏汗《あぶらあせ》を滲《にじ》ませていた。「警備司令部なんてのが有るのは、始めて知ったよ。驚いたネ」
「一般警報だというが、敵機の在処《ありか》や、台数など、莫迦《ばか》に詳《くわ》しすぎる
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