内には敵の一兵《いっぺい》も侵入することを許さなかったのである。然《しか》るに、今次の日米戦役《にちべいせんえき》に於ては、全く事情を異にして戦闘区域は国外に限定を許されず、吾が植民地は勿論、東京大阪等の内地まで、戦闘区域とするの已《や》むなきに立至った。これは諸君に於て既に御承知の如く、主として航空機による攻撃力が増大したる結果である。当局は、敵国航空機の日本本土侵略に対し、充分なる準備と重大なる覚悟とを有するものであるが、元来航空機の侵入を百パーセントに阻止《そし》することは、理窟上不可能と証明せられていることであるからして、敵機の完全なる撃退は保証しがたい。故《ゆえ》に本職は、各人が此辺の事情を理解し、指揮者の命に随《したが》い、官民一体となって此の重大事に善処せんことを望むものである。吾が国の家屋は火災に弱く、敵機の爆撃によって相当の被害あるべく、又非常時に際して種々の流言蜚語《りゅうげんひご》あらんも、国民は始終冷静に適宜《てきぎ》の行動をとることによりて其の被害程度を縮少し、空襲|怖《おそ》るるに足らずとの自信を持ち得るものと確信する。徒《いたず》らなる狼狽《ろうばい》は、
前へ
次へ
全224ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング