司令部の手に移ることとなりました。随《したが》って既に発表しましたプログラムは、すべて中止となりましたので、あしからず御承知を願います。それでは唯今より、東京警備司令官|別府《べっぷ》大将の布告《ふこく》がございます」
杉内アナウンサーは、マイクロフォンの前で、恭々《うやうや》しく一礼をして下った。すると反対の側から、年の頃は六十路《むそじ》を二つ三つ越えたと思われる半白の口髭《くちひげ》と頤髯《あごひげ》、凛々《りり》しい将軍が、六尺豊かの長身を、静かにマイクロフォンに近づけた。
「東京及び東京地方に居住する帝国臣民諸君」将軍の声は泰山《たいざん》の如くに落付いていた。「本職は東京警備司令官の職権をもって広く諸君に一|言《げん》せんとするものである。吾が帝国は、曩《さき》は北米《ほくべい》合衆国に対して宣戦を布告し、吾が陸海軍は東に於て太平洋に戦機を窺《うかが》い、西に於ては上海《シャンハイ》、比律賓《フィッリピン》を攻略中であるが、従来の日清《にっしん》、日露《にちろ》、日独《にちどく》、或いは近く昭和六七年に勃発せる満洲、上海事変に於ては、戦闘区域は外国内に限られ、吾が日本領土
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