》を束《たば》にして、天に向けたような聴音器が据えつけられていたのだった。夜に入ると、この聴音器だけが、飛行機の在処《ありか》を云いあてた。
「J、O、A、K!」
 神社の隣りに聳《そび》え立った、JOAKの空中線鉄塔のあたりから、アナウンサーの声が大きく響いた。
 弾薬函《だんやくばこ》の傍《そば》に跼《うずくま》っている兵士の群は、声のする鉄塔を見上げた。鉄塔を五メートルばかり登ったところに、真黒な函みたいなものがあるのが、薄明りのうちに認められたが、あれが、声の出てくる高声器なんだろうと思った。
 本物の杉内アナウンサーは、鉄塔の向うに見える厳《おごそ》かなJOAKビルの中にいた。スタディオの、黄色い灯《ひ》洩《も》れる窓を通して、彼氏《かれし》の短く苅りこんだ頭が見えていた。
「唯今から午後六時の子供さんのお時間でございますが……」
 と云ったは云ったが、流石《さすが》に老練なアナウンサーも、これから放送しようとする事項の重大性を考えて、そこでゴクリと唾《つばき》を嚥《の》みこんだ。
「……エエ、当放送局は、時局切迫のため、陸軍省令第五七〇九号によりましてこの時間から、東京警備
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