を持っていたが、云い出すのが恐ろしくて、互に押黙っていた。
 国民の不安が、もう抑《おさ》えきれない程、絶頂《ぜっちょう》にのぼりつめたと思われた其の日の夜、東京では、JOAKから、実に意外な臨時ニュースの放送があった。


   警戒管制《けいかいかんせい》出《い》ず!


 JOAKのある愛宕山《あたごやま》は、東京の中心、丸の内を、僅かに南に寄ったところに在《あ》った。それは山というほど高いものではない。下から石段を登ってゆくと、ザッと百段目ぐらいを数える頃、山頂《さんちょう》の愛宕神社の前に着くのだった。毬栗《まりぐり》を半分に切って、ソッと東京市の上に置いたような此の愛宕山の頂《いただ》きは平《たい》らかで、公園ベンチがあちこちに並び、そこからは、東京全市はもちろんのこと、お天気のよい日には肉眼ででも、房総半島《ぼうそうはんとう》がハッキリ見えた。「五分間十銭」の木札をぶらさげた貸し望遠鏡には、いつもなら東京見物の衆が、おかしな腰付で噛《かじ》りついていた筈だった。しかし、今日ばかりは、そんな長閑《のどか》な光景は見えず、貸し望遠鏡はどこかへ姿を隠し、その位置には代りあって、
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