ただよ》っているというわけだった。
 こんなわけで、横須賀軍港以来、二旬《にじゅん》の日数が経った。
 そして或る日のこと、艦長は乗組員一同を集めて、驚くべき訓令《くんれい》を発した。
「本艦は、本日を以て、米国加州沿岸《べいこくかしゅうえんがん》に接近することができたのである」艦長の頬は生々《いきいき》と紅潮《こうちょう》していた。「本艦の任務は、僚艦一〇二及び一〇三と同じく、米国の大西洋艦隊が太平洋に廻航して、祖国襲撃に移ろうというその直前に、出来るだけ多大の損害を与えんとするものである。其の目標は、主として十六|隻《せき》の戦艦及び八隻の航空母艦である」
 乗組員は、思わず「呀《あ》ッ」と声をあげかけて、やっとそれを呑みこんだ。
 艦長の訓令で、いままでの不審な事実は、殆んど氷解《ひょうかい》した。航路が複雑だったのは、米国の西部海岸に備えつけられた水中聴音機や其の辺を游戈《ゆうよく》している監視船、さては太平洋航路を何喰わぬ顔で通っている堂々たる間諜船舶《かんちょうせんぱく》の眼と耳とを誤魔化《ごまか》すためだったのだ。昨夜見たあの暗い海は、すでに敵国の領海だったのであるかと、
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